名古屋地方裁判所 昭和43年(行ウ)17号 判決 1974年3月29日
原告 水野正雄
被告 千種税務署長
訴訟代理人 松崎康夫 外四名
主文
一 被告が原告の昭和四〇年分所得税について昭和四一年一一月一〇日付でなした総所得金額を一四一万七、七〇〇円、所得税額を一八万七、四五〇円とする更正処分中、総所得金額につき一三一万九、〇九一円、所得税額につき総所得金額を一三一万九、〇九一円として算定した税額を各超える部分、過少申告加算税八、三五〇円の賦課処分中、右所得税額の超過部分にかかる部分をいずれも取消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを九分し、その八を原告の、その余を被告の各負担とする。
事 実 <省略>
理由
一 原告主張の経緯で本件各処分がなされたことは当事者間に争いがない。
二 被告主張事実中、推計による売上金額、算出所得率を除き、その余は原告において明らかに争わないところである。そこで売上金額、算出所得率について順次検討する。
三 売上金額
1 <証拠省略>および弁論の全趣旨を総合すると、原告は白色申告者であるところ、係争年当時の売上金額、仕入金額等を記録した帳簿書類を一切有せず、審査請求の過程に至るまで調査担当者の調査に対し何ら協力しなかつたことが認められる。
そうすると、本件は、実額により原告の売上金額を把握することは不可能な状況にあつたということができるので、推計により右売上金額を算定することはやむをえないというべきである。
2 そこで被告のなした推計について検討するに物品の移転を伴う業種においては原材料使用量から売上金額を算定する方法は基礎となる数値が正確であれば最も合理的な方法として是認できるものである。原告の主張する割箸による推計は購入本数が正確に把握しえても種類別一食当り単価の算出が困難でありまた従事員による推計は従事員の経験年数による能力換算を度外視しえず必ずしもその員数が売上金額に比例するとはいえないのでともに他に合理的な方法がない場合は止むをえぬ方法であるとしても不正確な推計にならざるを得ない。従つて、これらの方法によることはできない。
3 原材料の仕入量について
(一) 米の仕入量
<証拠省略>によれば、原告は昭和四〇年中毎月三ないし四俵の米を仕入れた事実を認めることができるので、平均すれば係争中における米の仕入量は四二俵(一六、八〇〇合)を下らないということができる。
(二) 普通醤油の仕入量
<証拠省略>によれば、原告は、昭和四〇年中に普通醤油三、六〇〇合を仕入れた事実を認めることができる。
(三) 白醤油仕入量
<証拠省略>によれば、原告は昭和四〇年中に白醤油三、一一〇合を仕入れた事実を認めるごとができる。
(四) 中華そば玉の仕入量
<証拠省略>によれば、原告は昭和四〇年中休日を除いて毎日一五ないし二〇玉を仕入れたこと、原告の休日は毎週日曜日であつたことが認められるので、年間総仕入量は五、四七七玉となる。
(365日-52日(休日数))×((15+20)/2)玉=54,775玉
(五) 生そば玉の仕入量
<証拠省略>によれば、原告は、昭和四〇年中いずれも営業日一日につき一月、二月、一一月、一二月は平均一玉、三月、四月、九月、一〇月は平均三玉、六月、七月、八月は五ないし八玉を仕入れたことが認められるので、右事実から年間総仕入量を算定すると次のとおり一、〇〇九玉になる。
(1) 一月、二月、一一月、一二月の仕入量 一〇三玉
(120日-17日(休日数))×1玉=103玉
(2) 三月、四月、五月、九月、一〇月の仕入量 三九三玉
(153日-22日(休日数))×3玉=393玉
(3) 六月、七月、八月の仕入量 五一三玉
(92日-13日(休日数))×((5+8)/2)玉=513.5玉
(4) 年間総仕入量 一、〇〇九玉 ((1) +(2) +(3) )
(六) 冷麦玉の仕入量
<証拠省略>によれば、原告は昭和四〇年中、六月中旬から八月中旬までの二ヶ月間営業日一日につき平均一〇ないし一五玉を仕入れたことが認められるので、年間総仕入量は六五〇玉となる。
(61日-9日(休日数)×(10+15)/2)玉=650玉
4 原材量の使用量について
<証拠省略>に弁論の全趣旨を総合すると、醤油の買入数量に対するロス率は三ないし四パーセントであること、原告方における米の自家消費量は月三斗、醤油の自家消費量は月二升であること、原告方では白醤油を自家用に月一升使用する(従つて、前記醤油二升中、一升が普通醤油、一升が白醤油とみるのが相当である。)ことが各認められるので原告が各商品を製造するために使用した原材料は次表の「4差引使用量」欄記載のとおりになる。
表<省略>
5 各商品の単位当りの原材料使用量
<証拠省略>に弁論の全趣旨を総合すると中華そばには中華そば玉一、もりそば、ざるそば、かけそばには生そば玉各三分の一、冷麦には冷麦玉一を使用すること、原告方では係争年当時いまだ炊飯器によつて米を炊いてはいなかつたこと、従つて炊いた米のうちある程度(こげた部分)は商品として販売できない部分があり、時期によつては売れ残つた商品を廃棄する場合があり、また中華そばには普通醤油は一切使用せず、白醤油のみを使用すること、しかし一般的に商品となしうる炊いた米一升につき一一杯の割合によるめしや丼物ができること、中華そばには醤油〇・一合、かやく物には白醤油〇・一合、もりそば、ざるそば、冷麦、冷うどん、丼物には普通醤油各〇・一二五合、うどん、きしめん、かけそばには普通醤油各〇・〇九合をそれぞれ使用すること等の各事実を認めることができる。
<証拠省略>は、原告方の原材料使用量について米一升から一〇杯のめし、丼物ができること、中華そば、かやく物には白醤油各七分の一合を使用すること等供述するが右証言は<証拠省略>と対比し、たやすく信用できないので、醤油の使用量については前記一般的な使用量をもつて原告方における単位当り原材料使用量とする。また、米については前記のとおり原告方では炊いた米全部を商品となしうるわけではないので仕入れた米一升から一〇杯の商品(丼物、めし)ができるものとするのが相当である。
右を表にすると次のとおりになる。
表<省略>
6 各商品の売上数量について
前記したところから各商品の売上数量を算定すると次のとおりになる。
(一) 中華そばの売上数量五、四七七杯
5,477玉〔中華そば玉の使用量〕×1〔1玉当り杯数〕=5,477杯
(二)かやく物の売上数 量二三、三三三杯
2,881号〔白醤油の総使用量〕-5,477×0.1合〔中華そばの白醤油使用量〕=2,333.3合〔かやく物の白醤油使用量〕
2,333.3合〔かやく物の白醤油使用量〕÷0.1合〔1杯当りの白醤油使用量〕=23.333杯
(三) もりそば、ざるそばの売上数量 一、五三九杯
原告の昭和四〇年中、生そば玉の使用量は前記4認定のとおり一、〇〇九玉であり、右そば玉はもりそば、ざるそば、かけそばの材料として使用されるものであるところ、右使用量中もりそばおよびざるそばの材料として使用された量について検討するに、<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば六月ないし八月に仕入れたそば玉はもりそば、ざるそばの材料に使われたものとみるのが相当である。六月ないし八月の生そば玉仕入量は前記3(五)(3) 認定のとおり五一三玉であるので次のとおり一、五三九杯がもりそば、ざるそばの売上数量となる。
513玉〔6月ないし八月のそば玉仕入量〕×3杯〔一玉当り杯数〕=1,539杯
(四) 冷麦の売上数量 六五〇杯
650玉〔冷麦玉の使用量〕×1杯〔一玉当りの杯数〕=650杯
(五) 冷うどんの売上数量 一九五杯
<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば、冷うどんの売上数量は冷麦の売上数量の三〇パーセントと認められるので、冷うどんの売上数量は一九五杯である。
650杯〔冷麦の杯数〕×0.3=195杯
(六) かけそばの売上数量 一、四八八杯
(1,009玉〔そば玉の総使用量〕×3杯〔一玉当りの杯数〕)-1,539杯〔もりざるの杯数〕= 1,488杯
(七) 丼物の売上数量 六、六〇〇杯
前記4認定のとおり米の使用量は一三、二〇〇合であり右米は丼物およびめしの材料として使用されるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、丼物とめしの売上数量は同一割合と認められるので、丼物の売上数量は次のとおり六、六〇〇杯となる。
(米の使用量)(1杯当りの米の使用量)
13,200合÷1合 =13、200杯
13、200杯×0.5= 6,600杯
(八) うどん、きしめんの売上数量 二三、三〇〇杯
前記4認定のとおり、普通醤油の使用量は、三、三五四合であり、各商品の醤油使用量は前記のとおりであつて、うどん、きしめん以外の商品の普通醤油使用量は次のとおり合計一、二五六・九二合であるので、うどん、きしめんの売上数量は二三、三〇〇杯となる。
(1) もり、ざるの普通醤油使用量 一九二・三七五合
1,539杯〔もりざるの売上数量〕×0.125合〔1杯当り使用量〕=192,375合
(2) 冷麦の普通醤油使用量 八一・二五合
650杯〔冷麦の売上数量〕×0.125合〔1杯当り使用量〕=81.25合
(3)冷うどんの普通醤油使用量 二四・三七五号
195杯〔冷うどんの売上数量〕×0.125合〔1杯当り使用量〕=24.375合
(4) かけそばの普通醤油使用量 一三三・九二合
1,488杯〔かけそばの売上数量〕×0.09合〔1杯当り使用量〕=133.92合
(5) 丼物の普通醤油使用量 八二五合
6,600杯〔丼物の売上数量〕×0.125合〔1杯当り使用量〕=825合
(6) うどん、きしめん以外の普通醤油使用量
一、二五六・九二合((1) +(2) +(3) +(4) +(5) )
(7) うどん、きしめんの普通醤油使用量 二〇九七・〇八合
3,354合〔普通醤油の総使用量〕-1,256.92合〔うどんきしめん以外の使用量〕=2,097.08合
(8) うどん、きしめんの売上数量 二三、三〇〇杯
13,200合〔うどん、きしめんの普通醤油使用量〕÷0.09合〔1杯当り使用量〕=23,300杯
(九) めしの売上数量 六、六〇〇杯
13,200合〔米の使用量〕÷1合〔1杯当りの使用量〕-6,600杯〔丼物の売上数量〕=6,600杯
(十) 売上数量を算定するにあたり、原材料の使用量を基礎にして推計計算することは基礎となる数値が正確に把握されている限り最も合理的方法といわなければならないことは前述したとおりであるところ、本件においては米、白醤油、普通醤油、そば玉、冷麦玉の使用量が把握されており、米、そば玉、冷麦玉を使用する中華そば、もりそば、ざるそば、冷麦、かけそば、丼物、めしについては、その原材料の使用量が単純な数値であるためにその計算の結果は実額に近いものが得られると解せられるのに反し、醤油の使用量から売上数量を推計せざるを得なかつたかやく物、うどん、きしめんについてはその単位当りの原材料の使用量が単純な数値ではないこと、その使用量も味つけという点から店によつて微妙な差異のあることは<証拠省略>により容易に窺われるが、<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば原告はうどんについては、うどん玉を使用せず、小麦粉を購入して手打ちで製造しており、また、被告において小麦粉の購入量を把握できなかつたことを認めることができ、従つてうどん玉からうどん、その他の商品の売上数量を推計するより合理的な方法を欠く本件においては醤油の使用量から売上数量を推計することも一応合理的であるとして是認しなければならない。
このことは、<証拠省略>によれば、原告は審査請求の段階においてうどん、きしめんの売上数量とかやく物の売上数量とが同一である旨申立てていたことが認められるし、前記(二)、(八)で算定した結果(かやく物二三、三三三杯、うどん、きしめん二三、三〇〇杯)も右事実にほぼ一致するので、本件について右のとおり醤油の使用量から売上数量を推計することは合理性を有するものということができる。
7 売上金額
(一) <証拠省略>に弁論の全趣旨を総合すると、原告の係争年における各商品の売上単価は次のとおりであることが認められる。
(1) 中華そば 七〇円
(2) かやく物 八〇円
(3) もりそば 七〇円
(4) ざるそば 八〇円
(5) 冷うどん 八〇円
(6) かけそば 四〇円
(7) 丼物 一一〇円
(8) うどん 三五円
(9) きしめん 四〇円
(10) めし 四〇円
なお、<証拠省略>によれば、当時原告の販売する丼物は玉子丼(単価一一〇円)、しのだ丼(単価八〇円)、かしわ丼(単価一三〇円)、親子丼(単価一三〇円)、木ノ葉丼(単価一一〇円)、カレー丼(単価一一〇円)等であつたことが認められるので、丼物としてその平均単価は右六種の単純平均値である前記一一〇円をもつて相当とする。
(二) 従つて、右各商品の売上金額を算定すると次のとおりになる。
(1) 中華そばの売上金額、三八万三、三九〇円
5,477杯〔売上数量〕×70円〔単価〕=383,390円
(2) かやく物の売上金額 一八万六、六四〇円
23、333杯〔売上数量〕×80円〔単価〕=1、866、640円
(3) もりそば、ざるそばの売上金額一一万五、四二五円
前記(一)認定のとおり、もりそば七〇円、ざるそば八〇円であるところ、その売上比率については各五〇パーセントとみるのが相当である<証拠省略>ので、その平均単価は七五円となる。従つて、その売上金額は次のとおり,一一万五、四二五円である。
1,539杯〔売上数量〕×75円〔平均単価〕=115、425円
(4) 冷麦の売上金額 五万二、〇〇〇円
前記(一)認定のとおり、冷うどんの単価は八〇円であるので、冷麦についてはこれと同額とするのが相当である。
650杯〔売上数量〕×80円〔単価〕=52,000円
(5) 冷うどんの売上金額 一万五、六〇〇円
195杯〔売上数量〕×80円〔単価〕=15,600円
(6) かけそばの売上金額 五万九、五二〇円
1,488杯〔売上数量〕×40円〔単価〕=59、520円
(7) 井物の売上金額 七二万六、〇〇〇円
6,600杯〔売上数量〕×110円〔平均単価〕=726,000円
(8) うどん、きしめんの売上金額 八七万三、七五〇円
前記(一)認定のとおり、うどん三五円、きしめん四〇円であるところ、その売上比率については各五〇パーセントとみるのが相当である<証拠省略>ので、その平均単価は三七・五円となる。
23,300杯〔売上数量〕×37.5円〔平均単価〕=873,750円
(9) めしの売上金額,二六万四、〇〇〇円
6,600杯〔売上数量〕×40円〔単価〕=264、000円
(10) その他(飲料水等)の売上金額 零
<証拠省略>によれば、麺類食堂には、酒、ビール、ジユース、つまみ等を用意するところがあり、同業者森川賢治方における右飲料水等の売上金額は麺類、米飯類の売上金額の二ないし三パーセントであること、係争年当時、原告方では飲料水としてラムネを置いていたにすぎないことが認められる。しかし乍ら、原告のラムネによる売上金額を森川賢治方の飲料水等の売上金額に準じて推計することは合理的でないし、その他、右売上金額を認めさせる資料はないので、計数上これを零とすべきである。
(11) 以上により、原告の総売上金額は四三五万六、三二五円((1) +(2) +(3) +(4) +(5) +(6) +(7) +(8) +(9) +(10))であるということができる。
(三) さて、右認定の売上金額は丼物、めしを除いては原告が営業用に仕入れた原材料をすべて使用し、かつ製造した商品全部を販売した場合の売上金額である(もつとも、米を使用する丼物、めしについては商品全部が販売できないことを考慮してその単位当り原材料使用量を認定したことは前記のとおりである。)ところ、<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば、仕入れた麺玉や醤油で作つた麺つゆ全てを商品として販売することはできず、廃棄せざるを得ない部分があること(また、夏季にはその割合も幾分増加することは容易に窺うことができる。)も認められるけれども右部分を計数上明らかにする証拠はなく、<証拠省略>によれば売上数量全体からみてその量は極少と認められる。したがつて、この部分に相当するものを格別差引くことなく前記のとおり原告の売上数量を算出することは許されるというべきである。
四 算出所得率
1 一般的に売上金額について類似同業者の平均的所得率を適用し、その営業所得金額を算定することは合理的であると思料する。
2 ところで、<証拠省略>によれば、被告は右所得率を算定するにあたり、当時原告の住所地を管轄する名古屋税務署管内である名古屋市東区および同千種区において麺類食堂を営む者のうち青色申告者全員三八名を抽出し(第一次選定)、右のうち原告と同規模の者を選ぶにあたり、原告の売上金額を四七〇万円と算定したことより四五〇万円の上下一五〇万円程度の幅をもたせて売上金額三〇〇万円以上六〇〇万円以下となる二〇名を抽出し(第二次選定)、これらの者の所得率を計算したところ、うち二名が他に比して異常に低かつた(二九パーセント強と二七パーセント弱)ので、これを除外し、残り一八名(第三次選定)の各所所得率を単純平均した三八・九八パーセントを以て原告の所得率とし、その所得計算をなしたことが認められる。
3 しかし、被告は右第二次選定にあたり原告の売上金額を四七〇万円とみて売上金額において原告と類似する同業者として売上金額三〇〇万円以上六〇〇万円以下の同業者を選定したものであつて原告の売上金額は先に認定したとおり四三五万六三三五円であるから、まず、その基準とした売上金額の算定に誤りがあるのみならず、類似同業者の選定にあたり右のとおり三〇〇万円以上六〇〇万円以下の範囲より選定するについて格別合理的根拠を見出すことができないし、かかる第二次選定を前提とした第三次選定も合理性を欠くものといわなければならない(別表(一二)のサおよびニの所得率が異常に低いといえないことは同表の記載から明らかである。)
ところで、被告は当時名古屋東税務署管内個人経営の同業者のうち青色申告者全員三八名を抽出したものであるところ青色申告者は業務に関する帳簿書類を備付け、事業所得に関する取引を正確に記帳するものであるから右三八名の収入金額、所得金額等は正確に算出されたものというべく、これら全員の平均算出所得率は同署管内における他の同業者の所得金額を推計するにあたり、これを適用することはあながち合理性を欠くものといえない。殊に、他により適切合理的な推計方法を見出すことができず、また明らかに相反した資料のない本件においては右の方法を採ることもやかをえない。そこで、<証拠省略>によれば、右三八名の収入金額および算出所得金額はそれぞれ別表白の「収入金額」欄および「算出所得金額」欄記載のとおりであると認めることができる。従つて、右三八名の算出所得率は計算するとそれぞれ同表の「算出所得率」欄記載のとおりである。
よつて、右認定にかかる三八名の所得率を単純平均した別表(三)の「平均算出所得率」欄記載のとおり三五・七二パーセントをもつて原告に適用すべき所得率とすることは相当であるということができる。
なお、管内青色申告者全員三八名中より適宜選定をなした一部を以て平均所得率を算出するにあたり、右選定の方法が合理的でないとされる場合でも右三八名全員の平均所得率を算出し、これによつて所得金額の推計をすることは申立の範囲内として訴訟上許されるものと解する。
4 原告は、<証拠省略>はいずれも作成者の特定を欠き証拠能力が認められない旨主張し、被告は右各文書の作成名義人は旧名古屋東税務署管内の青色申告者「ア」ないし「ヨ」である旨主張し、右「ア」ないし「ヨ」の氏名を明らかにせず、その住所の表示も名古屋市東区または同千種区というのみであるが、<証拠省略>によれば右「ア」ないし「ヨ」は旧名古屋東税務署管内個人経営の麺類食堂業者のうち青色申告者全員(三八名)であり、右各文書(但し、<証拠省略>は税務署職員の作成したものであるから除く。)は、右三八名の作成提出にかかる青色申告決算書中氏名と住所の一部が秘匿されているものと認めることができる。してみると右各書証は各別にその作成者を知ることはできないとしても、少くとも名古屋市東区、千種区内における個人同業者中青色申告者全員の作成したものということができるので、必ずしも作成者の特定を欠くということはできないし、民事訴訟法上証拠能力を欠く文書は存在しないので、原告の右主張は理由がない。
五 原告は、本件各処分の正当性を処分時までに収集した資料により主張、立証すべき旨主張するが、更正処分および過少申告加算税賦課処分が実体上適法であるかどうかの判定は当該更正処分が客観的に存在した課税標準または正当な税額等に基づきなされたか否かにより決定されるべき事柄である。そうすると、本件においては右にいう客観的に存在した課税標準または正当な税額等の存否が審理の対象であるので、これを理由あらしめる主張は訴訟法上単なる攻撃防禦方法であるから時期に遅れたものとして撲斥されない限り、口頭弁論の終結に至るまで随時提出することを妨げられるものではないし、右主張を根拠づける証拠も右処分当時の資料に限定する必要はないので、原告の前記主張は失当である。
六 以上により、原告の算出所得額を計算すると一五五万六、〇七九円となる。
4,356,325円〔売上金額〕×35.72%〔算出所得率〕=1,556,079円
従つて、右算出所得額から当事者間に争いのない特別経費一万一、九八八円、専従者控除額二二万五、〇〇〇円を控除すると原告の営業所得金額は一三一万九、〇九一円となる。
従つて、本件更正にかかる総所得金額一四一万七、七〇〇円のうち、右の一三一万九、〇九一円を超える部分、所得税額のうち総所得金額を一三一万九、〇九一円として算定した税額を超える部分および過少申告加算税八、三五〇円の賦課処分中右所得税額の超過部分にかかる部分はいずれも違法であるから取消すべきである。
七 よつて、原告の本件各処分の取消を求める本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山田義光 下方元子 樋口直)
別表(一)ないし(五)及び(七)ないし(二)<省略>